ピロリ菌
①ピロリ菌とは
ピロリ菌って何?
● ピロリ菌は胃の粘膜に生息しているらせんの形をした細菌です。
● ヘリコバクターの「へリコ」は、らせん形(へリコイド helicoid)から命名されており、ヘリコプターの「へリコ」と意味は同じです。
● 一方の端に鞭毛と呼ばれる毛が4~8本付いていて、活発に運動することができます。
● 胃には強い酸(胃酸)があるため、昔から細菌はいないと考えられていました。
● 1982年にオーストラリアのワレンとマーシャルという医師が胃の粘膜からの培養に成功し、ピロリ菌が胃の中に生息していることを報告しました。
● その後のさまざまな研究から、ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍などの胃の病気に深く関わっていることが明らかにされてきました。
どうして胃の中で生きていけるの?
● 胃には、強い酸(胃酸)があるため、通常の菌は生息できません。
● ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素をもっています。
● この酵素を利用すると、ピロリ菌の周辺をアルカリ性の環境にすることができるので、胃酸を中和することによって胃の表面まで移動することができます。
● ピロリ菌は胃の粘膜の表面か粘液の中に住んでいます。そこは胃酸の影響がほとんどないため生息できるのです。
ピロリ菌はどんな病気を起こすの?
● ピロリ菌に感染すると胃に炎症を起こすことが確認されていますが、ほとんどの人は自覚症状はありません。
● ピロリ菌の感染による炎症が続くと、感染部位が広がってヘリコバクター・ピロリ感染胃炎※になります。長い期間炎症が続くと、胃粘膜の胃酸などを分泌する組織が消失した状態(萎縮性胃炎※)になります。さらに進むと、胃粘膜は腸の粘膜のようになります。その後、一部の患者さんでは、胃がんになることも報告されています。
● 胃潰瘍、十二指腸潰瘍※の患者さんは、ピロリ菌に感染していることが多く、潰瘍の発症ならびに再発に関係していることがわかっています。
②ピロリ菌の検査
ピロリ菌の検査について
ピロリ菌の検査には、内視鏡を使う方法 と 内視鏡を使わない方法 があります。
内視鏡を使う方法
①迅速ウレアーゼ試験、 ②鏡検法、 ③培養法があります。 これらの方法では、内視鏡により採取した胃の組織を用います。
① 迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌のもつ酵素のはたらきで作り出されるアンモニアを調べて、ピロリ菌がいるかどうかを調べます。
②鏡検法
採取した組織を染色して顕微鏡で観察することにより、ピロリ菌がいるかどうかを調べます。
③培養法
採取した組織を用いて培養し、ピロリ菌が増えるかどうかを調べます。
内視鏡を使わない方法
①抗体測定、 ②尿素呼気試験、 ③便中抗原測定があります。
①抗体測定
血液や尿を採取してピロリ菌に対する抗体の有無を調べることにより、ピロリ菌に感染しているかどかを調べます。
②尿素呼気試験
検査用の薬を飲み、一定時間経過した後に、吐き出された息(呼気)を調べて、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べます。
③便中抗原測定
便を採取してピロリ菌抗原があるかどうかを調べます。
● ピロリ菌の検査は、これらのうち、いずれかを用いて行われますが、1つだけでなく複数の検査を行えば、より確かに判定できます。
③ピロリ菌除菌
ピロリ菌を除菌するとどうなるの?
● これまで慢性胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発は、やっかいな病気と考えられていました。
● 薬を服用することにより、ピロリ菌を退治する治療を「除菌療法」といいます。
● 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の人がピロリ菌に感染している場合、この除菌療法を行うことによって、完全というわけではありませんが、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発が抑制されることがわかってきました。
ピロリ菌に感染している人は、みんな除菌した方がいいの?
● 日本人のピロリ菌感染者の数は約3,500万人といわれています。
● 多くのピロリ菌感染者は、自覚症状がないまま暮らしています。
● 日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、ピロリ菌に関連する疾患の治療および予防のため、ピロリ菌感染者のすべてに除菌療法を受けることが強く勧められています。
● 保険適用で除菌療法の対象となる人は、ピロリ菌に感染している人のうち、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の患者さん、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の患者さん、胃MALTリンパ腫の患者さん、特発性血小板減少性紫斑病の患者さん、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃の患者さんです。
● 除菌療法が必要かどうかは主治医とよく相談してください。
潰瘍の原因はピロリ菌だけなの?
● ピロリ菌以外の潰瘍の原因として最も重要なのが、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)です。低用量のアスピリンの服用でも潰瘍ができることがあるので注意しましょう。
● お酒やタバコ、あるいは過度のストレスなどが潰瘍の原因となることがあります。
● ピロリ菌に感染していない(あるいは除菌した)からといって、決して潰瘍にならない(あるいは再発しない)というわけではありません。
ピロリ菌と胃がんは関係ある?
● 胃がんとピロリ菌は密接に関連しているといわれています。
● 胃潰瘍、十二指腸潰瘍や胃炎などの患者さんを対象としたわが国の調査では、10年間で胃がんになった人の割合が、ピロリ菌に感染していない人では0%だったのに対し、ピロリ菌に感染している人では2.9%だったと報告されています。
胃がんを予防するために ピロリ菌を除菌した方がよい?
● ピロリ菌を除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことができる可能性があります。
● 早期胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者さんは、除菌をしなかった患者さんと比較して、3年以内の新しい胃がんの発生が約1/3だったと報告されています。
● WHO(世界保健機関)の国際がん研究機関は、ピロリ菌除菌に胃がん予防効果があることを認め、各国ごとにその戦略をたてるようすすめています。
ピロリ菌の除菌療法とはどのようなことをするの?
● 下図のⅠ~Ⅴにあてはまる方は、除菌療法を受けるかどうかについて主治医とよく相談してください。
● ピロリ菌の除菌療法とは、1種類の「胃酸の分泌を抑える薬」と2種類の「抗菌薬」の合計3剤を同時に1日2回、7日間服用する治療法です。
● すべての治療が終了した後、4週間以上経過してから、ピロリ菌が除菌できたかどうか、もう一度検査する必要があります。
*除菌が成功した場合でも、まれに胃がんなどを発症することがあります。
そのため、除菌が成功した後も定期的な検査を受けることが大切です。
<病気の解説>
慢性胃炎(ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)
ピロリ菌が胃の粘膜に感染すると炎症が起こります。
感染が長く続くと、胃粘膜の感染部位は広がっていき、最終的には胃粘膜全体に広がり慢性胃炎となります。この慢性胃炎をヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と呼びます。
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎が胃潰瘍、十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎をひき起こし、その一部は胃がんに進展します。
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎は、除菌が成功すると改善します※1。
※1 除菌療法を受ける方は、必ず内視鏡検査を受けてください。
ピロリ菌感染の長期経過
萎縮性胃炎
長い期間炎症が続いて、胃粘膜の胃酸などを分泌する組織が消失した状態。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍
胃や十二指腸の粘膜の壁が傷ついて掘られた状態。除菌が成功すると潰瘍の発症ならびに再発を抑えることができます。
胃MALTリンパ腫
胃の粘膜にあるリンパ組織に発生する、ゆっくりと発育する腫瘍。除菌による効果が証明されています。
特発性血小板減少性紫斑病
血小板が減少し、出血しやすくなる病気。原則として18歳以上の患者さんが除菌療法の対象となります。除菌による効果が証明されています。
早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃
早期胃がんを内視鏡で治療した後の胃。その胃からは新しい胃がんが発生する可能性があります。除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことができる可能性があります。
機能性胃腸症(FD)
胃潰瘍や胃炎といったはっきりと目に見える病気がないのに胃もたれ、吐き気、胸やけ、嘔吐などの症状が少なくとも3ヵ月以上続く病気。「排便の状態や内容に関係しない」ことが条件です。除菌によって改善するという報告があります。
胃ポリープ
持続的な炎症により胃粘膜の一部が増殖し、胃内腔に突出した病変で、良性隆起性疾患の代表的なものです。胃ポリープにはピロリ菌と関わりのあるものとないものがあります。
(日本ヘリコバクター学会ホームページより一部改変)